閉ざされた過去

フィクション

過去の亡霊

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図書館の閉館時間が近づいていた。日記帳を手に取り、私はカウンターの奥にある小さな事務室へ向かった。ここなら、誰にも邪魔されずに読むことができる。蛍光灯の白い光が、日記帳の古びたページを照らし出す。

父の日常が丁寧に綴られた日記の中で、あの異変が記されているページに再び目を通す。乱れた文字と、短いけれども切実なメッセージ。「誰かが私を見張っている。何かがおかしい。」この一文は、父が何かに追われていたことを示唆している。しかし、誰が父を見張っていたのか、そして何が「おかしい」のか、全く分からない。

さらにページをめくると、父が不安を抱えていた様子がますます明確になってきた。「今日は、またあの黒い車が家の近くをうろついていた。何かを調べているのだろうか?」その言葉に胸が締め付けられる。父はずっと何かに怯えていたのだろう。

図書館の閉館アナウンスが流れた。私は日記帳をバッグにしまい、明日もう一度じっくり読むことにした。出口へ向かうと、外はすっかり暗くなっていた。家までの帰り道、薄暗い街灯の下を歩きながら、父の記憶と日記帳の内容が頭の中でぐるぐると回り続けた。

家に着くと、リビングの電気をつけ、再び日記帳を取り出した。コーヒーを淹れ、読み進めることにした。父の日記には続けて、こう書かれていた。「今日、謎の男が私に接触してきた。彼は私にある取引を持ちかけてきたが、その内容は話すには危険すぎる。」父は一体、何をしようとしていたのだろうか。恐ろしい予感が胸を覆う。

**

東京の夜は、いつも以上に冷たい風が吹いていた。翌日の早朝、私は松本夏美の住む町へ向かうために、電車に乗り込んだ。車内は静かで、窓の外には薄暗い田舎の風景が広がっていた。長い間探し続けていた手掛かりが、ようやく掴めるかもしれない。そんな期待と不安が入り混じる中、私は車窓を眺めていた。

目的地に到着し、町の駅に降り立った。小さな駅舎と、のどかな風景が広がっている。東京の喧騒とはまるで別世界だ。駅から歩いて10分ほどで、松本夏美が働く図書館に辿り着いた。外観は古風で、どこか懐かしい雰囲気を漂わせている。

図書館の扉を押し開け、中に入ると、ひんやりとした空気が肌に触れた。カウンターには、若い女性が立っていた。彼女が松本夏美だと直感した。私は彼女に声をかけた。

「松本夏美さんですか?佐々木慶太と言います。お話ししたいことがあります。」

彼女は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻した。彼女は私を事務室に案内し、二人で腰を下ろした。

「どうして私の名前を知っているんですか?」夏美が尋ねた。

「これを見てください。」私は封筒から写真を取り出し、彼女に見せた。写真には、私の父と彼女の父が一緒に写っている。夏美は写真をじっと見つめ、そして深いため息をついた。

「私の父も失踪しています。この日記帳に、何か手掛かりがあるかもしれません。」彼女はそう言って、父の日記帳を私に見せた。私は日記帳を受け取り、慎重にページをめくった。

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佐々木慶太という男は、真剣な眼差しで日記帳を読み進めていた。彼の父もまた失踪していると聞いて、私は驚きと同時に奇妙な共感を覚えた。失踪した父を持つ者同士、私たちには何か通じるものがあるように感じた。

「この日記には、あなたの父が何かに怯えていた様子が綴られています。何か心当たりはありますか?」慶太が尋ねた。

「正直、全くわかりません。ただ、父が失踪する直前に何か大きな問題に巻き込まれていたのではないかと思います。」私は答えた。

「私の父も同じような状況でした。彼も何かに追われていたようです。おそらく、二人の父親には共通する何かがあったのかもしれません。」慶太は考え込むように言った。

私たちは協力して、この謎を解くことを決意した。日記帳に書かれている暗号のような記述を解読するために、慶太は自分の持つ情報を提供し、私もできる限りの協力をすることにした。

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日記帳を読み進めるうちに、父が何か重大な秘密を追っていたことが明らかになった。あるページには、「地下室に隠したものを見つけることができれば、全てが明らかになるだろう。」と書かれていた。

「地下室…これは一体どこにあるんだろう?」夏美が疑問を口にした。

「おそらく、あなたの家か、その近くにあるのではないでしょうか。まずはその場所を探し出すことが先決ですね。」私は提案した。

私たちは早速、夏美の家へ向かうことにした。家に到着すると、古い屋敷のような建物が私たちを迎えた。夏美の母親が出迎えてくれ、事情を説明すると快く協力してくれた。

「地下室なんて聞いたことがないけど、家のどこかに隠されているのかもしれないわね。」母親が言った。

私たちは家の中を隅々まで調べ始めた。古い家具を動かし、壁を叩いて空洞がないかを確認した。そして、ついにリビングの床下に隠された入口を見つけた。床板を外すと、地下へ続く階段が現れた。

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階段を降りると、薄暗い地下室に辿り着いた。そこには、古びた木箱や書類が散乱していた。私はその中の一つの箱を開け、中に入っていた資料を取り出した。古い写真、手書きのメモ、新聞の切り抜き。これらは、父が追っていた秘密の一部を示している。

「これを見てください。」私は慶太に資料を見せた。

彼は写真とメモをじっと見つめ、そして一言。「これは…あの組織の証拠だ。」

その言葉に、私の胸は高鳴った。父が追っていた組織、それが全ての鍵を握っている。私たちはその組織の痕跡を追い、父たちの失踪の謎を解明するための第一歩を踏み出した。

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