閉ざされた過去

フィクション

登場人物

*: 松本 夏美(まつもと なつみ) 35歳。地元の小さな町で暮らす図書館司書。幼少期に父親が失踪した過去を持つ。
**: 佐々木 慶太(ささき けいた) 36歳。東京で働く刑事。幼少期に母親を亡くし、父親に引き取られるもその父親が失踪。

プロローグ

*

図書館の窓から差し込む夕陽が、本棚を赤く染めていた。静かな館内には、時計の針が動く音だけが響いている。私は、カウンターの下に隠された古い木箱を取り出した。箱の中には、埃をかぶった日記帳が眠っていた。これは、私の父が書いたものだ。

父が失踪したのは、私がまだ小学生の時だった。あの時の衝撃は今も鮮明に覚えている。突然、家に帰らなくなった父。母は泣き崩れ、私もどうしていいかわからなかった。警察に届け出たが、手掛かりは何も見つからなかった。それ以来、私たちは父のことを封じ込めるように生きてきた。

日記帳を手に取ると、表紙がボロボロで、角が擦り切れていた。何度も開かれ、閉じられた痕跡がある。私は、父が何を考えていたのか、この日記帳がすべてを明かしてくれるのではないかという期待と不安で胸がいっぱいになった。

日記帳をめくると、最初のページには父の丁寧な字が並んでいた。「今日は、新しい仕事を始めた。うまくいくといいのだが。」と書かれている。平凡な日常の記録が続く中、突然、あるページで文字が乱れていた。「誰かが私を見張っている。何かがおかしい。」その一文に、私は凍りついた。

**

東京の雑踏を見下ろすオフィスの窓際に立ち、私は一通の封筒を手にしていた。封筒には「佐々木慶太様」とだけ書かれている。差出人の名前も住所もない。不審に思いながらも、中身を確認するために封を切った。

中には古びた手紙と一枚の写真が入っていた。手紙には、「松本夏美」という名前と住所が書かれていた。写真には、私の父と思われる人物ともう一人、女性が写っていた。その女性が夏美だと直感した。何故、父はこの人物を知っているのか。私の心に疑念が渦巻いた。

父が失踪したのは、私がまだ中学生の時だった。母を亡くし、父と二人で暮らしていたが、突然彼は姿を消した。父の失踪は私の人生を大きく変えた。警察学校に進み、刑事となったのも、父の行方を追うためだった。しかし、何年経っても手掛かりは見つからなかった。

この手紙が、父の居場所を教えてくれるのだろうか。私はその疑問を胸に、封筒の中の写真を再び見つめた。写真に写る夏美の住所は、私がこれまで訪れたことのない小さな町だった。すぐにでもその町へ行き、夏美に会う必要がある。彼女が何かを知っているはずだ。

その夜、私は眠れぬまま、父との思い出を振り返っていた。父は優しくて誠実な人だった。そんな父が突然消えるなんて、何か重大な理由があるに違いない。明日、私はその町へ向かい、松本夏美と対峙することを決意した。父が残した手掛かりが、私の心の中で揺れ動く。果たして、真実はどこにあるのだろうか。

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